同じ会社にいるのに、違う景色を見ている
朝礼で話した方針が、午後にはもう忘れられている。全体会議で共有したビジョンに、誰もうなずかない。経営者として、そういう瞬間に覚える孤独は深い。自分は全力で伝えているつもりなのに、なぜ届かないのか。
一方で、従業員の側にも言い分がある。「社長は現場を見ていない」「方針がころころ変わる」「数字の話ばかりで、自分たちの仕事がどう繋がっているのかわからない」。こうした声は、経営者の耳にはなかなか届かない。届いたとしても、それが本音かどうかはわからない。
この溝は、どちらかが悪いから生まれるものではない。経営者と従業員では、見ている時間軸が違う。経営者は3年後、5年後を見ている。従業員は今月の売上、今週の納期を見ている。同じ会社にいながら、まったく違う景色の中で仕事をしている。
言葉が通じないのではなく、前提が違う
「もっと主体的に動いてほしい」と経営者は言う。だが従業員にとって、主体的に動くとはどういうことなのか。判断基準が共有されていなければ、動きようがない。動いた結果が否定されるかもしれないという恐れもある。
「なぜ報告が上がってこないのか」と苛立つ経営者がいる。しかし従業員からすれば、何を報告すれば良いのかがわからない。あるいは、報告しても反応がないから、やめてしまったということもある。
溝の正体は、情報量の差ではなく、「前提の共有」が欠けていることにある。同じ言葉を使っていても、その言葉が指すものが違っていれば、会話は成立しない。
経営者が「利益率を上げたい」と言うとき、そこには会社の存続、従業員の雇用、次の投資への布石など、複数の意味が込められている。だが従業員が受け取るのは「コストを削れということか」「自分たちの給料が減るのか」という別の解釈かもしれない。
溝を埋めるのは、説明ではなく問いかもしれない
多くの経営者は、この溝を「説明不足」で片付けようとする。もっと丁寧に説明すれば伝わるはずだ、と。だが、説明を増やしても溝が埋まらないことは、すでに経験しているのではないだろうか。
溝を埋めるきっかけになるのは、説明ではなく、問いかもしれない。「自分は本当に、従業員が見ている景色を知っているだろうか」「伝えたつもりのことは、どう受け取られているだろうか」「主体性がないのは、本人の問題なのか、それとも判断基準を渡していない自分の問題なのか」。
こうした問いは、誰かに言われて初めて気づくことが多い。日々の業務に追われている経営者が、自分だけでこの問いにたどり着くのは難しい。だからこそ、外部からの視点が意味を持つ。
データが映し出す、言葉にならないギャップ
採用ページには「風通しの良い職場」と書いてあるのに、離職率が業界平均を超えている。求人を常に出し続けているのに、組織の規模が変わらない。こうした数字の矛盾は、経営者と従業員の間にある溝を、別の角度から映し出している。
Sentioは、こうしたデータの矛盾を読み取り、経営者に問いを届ける。答えを出すのではなく、「今、立ち止まって考えるべきこと」を一つだけ届ける。その問いが、溝の正体に気づくきっかけになるかもしれない。
溝は、一日では埋まらない。しかし、問いを受け取り、考え、自分の言葉で答えることを繰り返すうちに、少しずつ見える景色が変わっていく。それは従業員との関係だけでなく、経営そのものの質を変えていく。