新規事業の誘惑

既存事業は安定してきました。少し時間とリソースに余裕があります。そんなとき、頭の中に新規事業のアイデアが浮かんできます。あるいは、外から「一緒にやらないか」という話が来ます。

新規事業はワクワクします。しかしワクワクは、判断を曇らせる。

新規事業の話が来ると心が躍る。日常の繰り返しに疲れた経営者ほど、新しい挑戦に魅力を感じます。しかしその「躍る心」が判断を曇らせていないかを疑う必要があります。

新規事業を始めるかどうかの判断は、合理性だけでは決まらない。経営者の感情、過去の失敗、現在の充足度、すべてが影響します。

「やりたいか」と「やるべきか」は別

経営者がよくする間違いは、「やりたい」気持ちを「やるべき」理由で正当化することです。市場性、シナジー、成長性。後付けの理由はいくらでも作れます。

本当に問うべきは、「やりたい」と「やるべき」のどちらを優先しているかを、自覚しているかです。

「やりたい」と「やるべき」を混同する経営者は多い。後付けで合理的な理由を組み立てるのは簡単です。だからこそ、最初の動機が何だったかを正直に振り返ります。

「やりたい」気持ちを「やるべき」理由で正当化する癖を、経営者は意識的に抑える必要があります。感情と論理を分けて見ます。

既存事業のリソースを奪う覚悟

新規事業は、必ず既存事業のリソースを奪う。経営者の時間、人材、資金、注意。奪われた分だけ、既存事業は弱くなります。

新規事業を始めるとき、既存事業のどの部分が薄くなるかを明確にしておく必要があります。

新規事業は時間と人と金を奪う。奪われた既存事業がどう薄くなるかを、始める前にシミュレーションしておくべきです。

新規事業は既存事業のリソースを必ず奪う。奪われた分だけ既存事業は薄くなります。この覚悟がないなら、始めない方がいい。

「新規事業の失敗より、既存事業が手薄になったことのほうが痛かった。」
— ある経営者の言葉

撤退ラインを先に決めておく

新規事業は始める前より、止める判断のほうが難しい。だから始める前に「いつ、どの数字を見て撤退するか」を決めておく。

決めておかないと、サンクコストが判断を支配します。

「いつ撤退するか」を決めずに始める新規事業は、止めるタイミングを永遠に逃す。

撤退ラインを最初に決めない新規事業は、サンクコストに支配される。決めておくだけで、判断の自由度は変わります。

GOを決める前に、自分に問う

新規事業を始める前に、自分にこう問いたい。「これを始めることで、自分は何を手放す覚悟があるか」。手放せるものが明確になれば、判断は鋭くなります。

始めることより、始めない選択肢を真剣に検討することのほうが、難しい。

始めない選択肢を真剣に検討する

新規事業の判断で最も難しいのは、始めない、を真剣に検討することです。始めないことは、何もしないことではありません。既存事業に集中する、という積極的な選択です。

始めないことのメリットを言葉にしてみる。リソース集中、判断の単純化、社員の安定。それらが見えてくると、始める動機が本当に強いかを試せる。

始めない勇気を持てる経営者は、始めるときも強い。